映画は『観る』から『入り込む』へ。岸辺露伴の企画考察と集客施策アイディア

 映画『岸辺露伴は動かない 懺悔室』の体験型イベント。そのプレスリリースには、IP活用や社会課題への視点など、広告企画を考える上で参考になるポイントが多く含まれているように思います。
 本稿では、この注目すべき事例を考察すると共に、「もし自分なら」という視点で具体的な集客シナリオを3つ考案してみました。この記事がプランナーの皆様の思考の壁打ち相手になれば幸いです。

■広告のネタ帳とは?

「もうちょっと刺さるアイデアがほしいな……」と思ったとき、世の中の広告を眺めると意外なヒントに出会えるものです。
広告のネタ帳は、そんなときに役立つ『ちょっとした切り口』を広告事例から拾い上げるコラムです。

目次

『映画×没入体験』という新たな文化体験

 映画の楽しみ方は、スクリーンを「観る」だけでなく、物語の世界に自ら「入る」フェーズへと進化しつつあります。 冒頭でご紹介した『岸辺露伴は動かない 懺悔室』のイベントは、その最新事例として注目したい企画です。映像という二次元の体験を、五感を伴う三次元へ拡張する試みは、IP活用の価値を最大化する新たな手法と言えるでしょう。

 本事例はシンプルな消費行動を能動的な参加に変えた、エンターテインメントの近未来を感じさせる示唆に富んだプレスリリースだと考えています。

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【考察】なぜこの企画は面白いのか?『岸辺露伴』没入体験の”狙い”を深堀り

 既に東京・お台場では大成功を収めている本イベント。好評を受けて関西進出を決定したそうですが、この企画の魅力は一体どこから来ているのでしょうか。
 私は単にIPの人気があるからだけではなく、企画の核となる周到に練られた仕掛けがあるからだと考えています。IP選定の理由から開催場所、社会的な意義に至るまで、すべてが有機的に結びついているように見える本企画にどのような狙いがちりばめられているのか、3つの観点から検討してみました。

狙い①単なる「人気IP」ではない。岸辺露伴であることの必然性

 この企画の強みの一つは、原作IPの人気だけでなく、映画の世界観と地続きの体験設計をしている点ではないでしょうか。実写映画は原作のリアリティを映像や美術で具体的に表現するメディアです。観客は映画の記憶が鮮明なうちに、物語のアナザーストーリーである「もう一つの告解」に記者として参加することができるのです。

 これは映画を観た観客の「あの世界のもう一つの顔を知りたい」という欲求を満たす、完璧なアンサーになるでしょう。IPを利用するのみのイベントとは異なり、映画体験の拡張と呼べる巧妙な設計だと思います。

狙い②最高の没入感を生む「本物の空き家」という舞台装置

 舞台装置として本物の空き家を選んだのは、没入感を高めるのに最適な手段だと思います。なぜなら、多くの人に映画で見たリアルな世界観を追体験したいという「実際にはかなわないと理解していながらも空想してしまう」根源的なニーズがあるからです。

 作りこまれたセットではなく生活感のある空き家を使うことで、現実と地続きのリアリティを感じられるはずです。フィクションと現実の境界線があいまいになり、最高の没入体験が生まれるのではないでしょうか。

狙い③「社会課題の解決」という強力なPRフック

 没入体験の引きの強さに隠れがちですが、この企画はエンターテインメントとしての魅力に加えて、地域との連携という点でも素晴らしい可能性を秘めているように見受けられました。
 舞台となる向日市は、京都市中心部の賑わいとはまた違う、静かで趣のあるエリアです。この場所の選定は、イベントの没入感を高めるという作品上の狙いはもちろん、京都観光の新たな魅力を提案し、人の流れをより広域に促す「持続可能な観光」という視点にも繋がるのではないでしょうか。

 さらに空き家の活用という試みは、地域が持つ資源に新たな光を当てる社会的意義のある取り組みでもあります。増加し続ける活用可能な住宅ストックに焦点を当てた本企画は、企業の社会的責任を果たす活動として地域社会に配慮した企業であるというブランドイメージの向上に寄与できると感じました。

総務省の「令和5年住宅・土地統計調査 住宅数概数集計(速報集計)結果」によると、2023年10月1日時点での空き家は900万戸にのぼり、総住宅数に占める空き家率も13.8%と過去最高を更新しました 。特に、賃貸・売却用や二次的住宅(別荘など)を除く空き家は385万戸(2018年比で+37万戸増)もあります。

 以上のような多角的な魅力を持つ企画であるからこそ、ニュースメディア等も様々な切り口で取り上げやすく、結果として、社会的な関心と認知を獲得できるのだと思います。

さらなる集客を目指すなら?3つの施策アイディア

 プレスリリースから伝わる緻密さから、この企画が大きなポテンシャルを秘めていることが分かります。
 では、このポテンシャルを最大限に引き出し、より多くの人を惹きつけるためには、どのような広告施策が考えられるでしょうか。
 本稿では、目的別に3つのシナリオを考えてみます。

①コンバージョンを最大化するデジタル広告

岸辺露伴事例画像2枚目

 まずは原作ファンや映画ファンといった、既に熱量が一定以上ある顧客を確実に集客する仕組みの構築です。アプローチ対象は比較検討層。一度はチケット購入を考えたユーザーに対し、最後の一押しを実施して確実にコンバージョンへとつなげます。

 配信媒体はGoogle広告やMeta広告などのデジタル広告をメインで考えており、具体的にはリターゲティング広告の実施を考えました。
 公式サイト訪問者やSNS公式アカウントへリアクションした顕在層に対し、映画の世界が現実に登場していることを体感できるような動画広告を配信します。特にチケット購入ページまで到達したユーザーに対しては、割引情報や残予約数情報を追加で提示することで購入を後押しします。

 また顕在層の刈り取りなら、リスティング広告も施策候補に入れられるでしょう。指名検索する顕在層から、没入型イベントを好む比較検討層に対してもアプローチができそうです。その他、EFO施策を実施しCVRを高めるのもひとつの手だと考えられます。

 >>【関連資料】Criteo、Google、メルカリAds、RTB HOUSEフィード広告運用
 >>【関連資料】リスティング広告|Google広告/Yahoo!広告運用代行&ディレクション

②興味を惹きつける体験型サンプリング

 次に実施したいのは、リターゲティング広告の効果をブーストする施策です。没入型体験やリアル脱出ゲームなどの体験型コンテンツを好むユーザーに「発見」という価値を提供します。メインのアプローチ対象は興味関心層。謎解きを通じた企画への接点を持たせることで、比較検討層に引き上げることを目的とします。

 実施施策はサンプリングです。ターゲットが日常的に訪れそうなサブカル系書店やボードゲームカフェ、体験型コンテンツの会場で「アイテム」を三か所程度で配布します。配布物はサブカル系の書店であれば栞を、ボードゲームカフェであればコースターを……というように、各場所に存在していて当然なものを採用します。

岸辺露伴事例画像3枚目

 これら配布物には、企画に関連する情報を二つちりばめておきます。

 ひとつは公式サイトへ遷移できるQRコードです。遷移先には、そのQRコード経由でしか発見できないコンテンツを準備しておきます。企画への理解や興味関心が深まるような情報があると良いですが、ターゲットが原作を知らない可能性もあるため、提供する情報の検討は必要そうです。もちろん、QRコード経由でサイトを訪問したターゲットはリターゲティングの配信リストに組み入れます。

 もうひとつは謎解きコンテンツです。各アイテムは、それ一つで完結する小さな謎解き体験ができるよう設計しておきます。問題の答えには本企画をいっそう楽しめるような情報の断片を忍ばせておきます。その情報があるからこそトゥルーエンドに到達しやすくするのもいいし、逆にミスリードをあえて誘発させることで滅多に到達できないエンドに導くのも面白そうです。

 さらに謎解きを成功させると、それだけでは何を意味しているのかがわからない特定の暗号(キーワードやアルファベットの羅列など)を獲得できる仕組みも併設しておきます。

 理想は、この段階でターゲットが企画に興味を持っていたり、暗号を解読したいという探求心が芽生えていることです。この状態を早期に醸成するために、インフルエンサーに案件を依頼してみるのもよいかもしれません。映画系の配信者や、原作の解説動画をアップロードしているインフルエンサーなら、一定以上の興味関心をすでに持っているファン層へアプローチができそうです。

 「アイテム」を受け取り、小さな謎を解いたユーザーの手には不可解な暗号だけが残っています。それも一つではなく三つもあることが示されている。「結局、この暗号は何なんだろう? 三つ集めるとどうなるんだろう?」という探求心。その答え合わせをするのが次のプランです。
 個別に集められた暗号という点を繋ぎ、一つの線にする。そのための仕掛けを、より多くの人々が集まる場所で展開することで、企画への関心をさらに高めていくことを狙います。

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③認知を拡大する体験型OOH(屋外広告)

 最後に実施するのが、企画全体の認知を広げると同時に、サンプリングで蒔いた謎の答え合わせを行うプランです。目的は企画そのものへの認知拡大、そしてサンプリングでユーザーが手にした「アイテム」の本当の使い道を提示することです。アプローチ対象は非認知層と認知層、サンプリングでアイテムを手にした興味関心層です。

 実施施策はオフライン広告です。京都駅前や付近のメインストリートなどの人通りの多い場所に、暗号が刻まれた石版のようなオブジェを設置します。あるいは企画で活用する空き家を模したセットでもよいかと思います。

 オブジェは企画の世界観を守りつつ、それ単体でも通行人の目を引く異物感がでるように作成します。町中を歩いていれば意識に入りこんでくるものにすることで、企画そのものを知らない非認知層に興味と認知を促せると考えました。
 加えてオブジェ本体にもQRコードを搭載しておけば、興味を持ってくれたユーザーにサイト遷移を促せるため、①のリターゲティング広告の配信リストも拡充できそうです。

岸辺露伴事例画像4枚目

 さらにオブジェ本体には、もうひとつ解くべき謎を用意しておくことにします。この謎を解くポイントが②のサンプリングで配布した「アイテム」です。
 偶然「アイテム」を手に入れて謎解きをしていたユーザーは、町中でオブジェを発見することによって、図らずも手にした暗号がここで役立つのだと直感します。逆にオブジェを最初に認知し興味を持ったターゲットは、逆にサンプリングをされにいくという能動的な行動を取るかもしれません。

 一見無関係に見えるオフライン広告とサンプリングが鍵と錠前の関係にあるとわかった瞬間、ユーザーの知的好奇心は刺激され「この謎を解き明かしたい」という気持ちを喚起できるのではないか、と考えました。

まとめ

 本稿は素晴らしい企画を紹介するだけでなく、その企画を基に「自分ならどう展開するか」という思考実験を行う二部構成で執筆しました。
 施策アイディアでは、各プランが連動し、相乗効果が生まれる設計にすることを意識しました。例えば、認知施策は本来の役割に加え、サンプリング施策でアイテムを手にした興味関心層や比較検討層の体験価値を高める仕組みにしている点です。
 しかし最も重要なのは、実施施策が企画本編への期待感を最大化させるアプローチとして機能しているかどうかだと感じます。

 本記事が、皆様の次の企画を考える上で新たな視点や切り口を発見するための一助となりましたら幸いです。

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