夏休みの熱気が冷めやらぬ中、大阪万博の会場は今なお多くの来場者で賑わいを見せています。その入場ゲートやパビリオンではデジタルチケットとしてQRコードをかざして入場します。
このように身近になったQRコード。今やQR決済やSNSのアカウント交換はもちろん、レストランでも「QRコードを読み取ってご注文ください」と店員さんに案内されることが日常となりました。
こうして私たちの生活に深く浸透しているQRコードは、広告の分野においてもアイデア次第で大きな可能性を秘めています。
■広告のネタ帳とは?
「もうちょっと刺さるアイデアがほしいな……」と思ったとき、世の中の広告を眺めると意外なヒントに出会えるものです。
広告のネタ帳は、そんなときに役立つ『ちょっとした切り口』を広告事例から拾い上げるコラムです。
1. QRコードの普及背景
QRコードは1994年にデンソーウェーブの原昌宏氏らが開発した二次元バーコードです。もともとは製造業の物流管理用に使われていました。 しかし標準化され誰でも無料で生成・利用できるオープンな規格となったことで、2000年代から物流以外の一般分野でも広く普及していきます。
(※QRコードの読み取り精度や高速化に関する読み取りエンジンはデンソーウェーブが保有しています)
特に2002年QRコードリーダー搭載のガラケーが登場したことで雑誌広告、自販機広告、商品パッケージ、駅のポスターに至るまで、さまざまな媒体にQRコードが導入されるようになります。 このQRコード広告の普及は日本国内だけでなく世界に広がりました。
2011年頃にまず韓国に伝播し、翌年中国ではWeChatのQRコード決済が広まったことによりQRコード広告も普及。 欧米は意外にも遅く、2017年にiOS11でiPhone標準カメラでも読み取れるようになったことで、一般ユーザーにも一気に普及しました。
2. QRコードを活用したユニークな広告事例を3つご紹介
QRコードならではの特性を生かした創意工夫に富んだ広告施策を3つご紹介します。
ー 事例1:外国人観光客向け病院検索サービス×QRコードTシャツ広告
訪日外国人向けの医療機関検索サービス「MEDSEEK(メドシーク)」は2025年6月にリリースされたサービスです。
2025年6月までの半年間で日本を訪れた外国人旅行者数が2000万人を超え、過去最多となりました。 その一方で、訪日外国人が旅行中に突然の体調不良に見舞われた際に、 「病院を受診したいけれど、どこに行けばいいかわからない」 「英語で対応してくれる病院がわからない」といったトラブルに直面する観光客は少なくありません。 そのような不安を解決するため、MEDSEEKは現在地から最寄りの医療機関を多言語で検索できます。
さらに事前にオンライン問診票を記入することで言語の壁を減らし医療機関での受診がスムーズに行えるサービスというのが大きな特徴です。 そして宿泊施設に設置されているQRコードを読み取れば即座に問診票画面が表示されます。
そのMEDSEEKは浅草でQRコードが印字されたTシャツ広告を着て街を歩くと行ったユニークな広告施策を行っています。
QRコードTシャツ広告の独自性

飲食店のスタッフのTシャツを広告媒体にする「Tシャツ広告」やデジタルサイネージを背負った人が街を「歩く広告」はこれまでも存在していました。
それらとQRコードを組み合わせものが今回の「QRコードTシャツ広告」と言っていいかもしれません。
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外国人観光客の多いエリアで人が広告として移動することで、高い視認性と場所や時間に合わせて柔軟にアプローチできるのが特徴です。
またQRコードは言語に依存せず理解されるため、インバウンド向けのサービスとしての相性が良く、スマートフォンを構えている観光客が多い観光地では特にスキャン率が期待できます。
考察
OOH(屋外広告)で問題となりがちな「効果測定の困難さ」もQRコードのスキャン数によって広告効果を定量的に測定することができます。
また、Tシャツ広告という手法に加え、QRコードを読み込めばその場でサービスにアクセスできる導線を設計することで、「見る広告」から「体験する広告」へと発展しています。 これはユーザーとの接点を深める体験型プロモーションとしても機能しており、ただのOOHにとどまらない価値を生み出しています。
また必要なコストはTシャツと人件費のみのため費用面でも導入ハードルが低く、小規模なテスト導入から始められ、効果を見ながら全国展開も検討しやすい施策です。
ー 事例2:ギネスビール×QRコードつきグラス広告
ギネスビールは2012年、QRコードを活用したユニークなキャンペーンを実施しました。 使われたのは、真っ白なQRコードが描かれた専用の1パイントグラスです。
何も入っていない状態ではQRコードが見えませんが、黒いギネスビールを注ぐとQRコードが初めてはっきりと浮かび上がります。
QRコードつきグラス広告の独自性

このキャンペーンの特徴は、ギネスの黒さというブランド資産を最大限に生かし、「ギネスを頼まないとQRコードが現れない」という体験そのものを話題化した点です。 またデザインもドットで泡を表現し「白い泡と黒いビールのコントラスト」というギネスのブランド価値を強くアピールできています。
考察
本施策の目的はメディア露出とパブでは他のビールではなくギネスを選んでもらうというものでした。結果として、複数のメディアが大々的に取り上げ、大きな話題となりました。。
ギネス以外のビールでは成立しない仕組みを使うことで「ギネスを選ぶ理由」を明確に打ち出し、競合との差別化と話題づくりを同時に実現しています。 まさにQRコードの特性とプロダクトの特性が見事に組み合わさった広告施策と言えるでしょう。
当時はスマホもSNSも今ほど普及していなかったため、現在であれば、さらにSNSでの拡散が期待できそうです。
ー 事例3:大型スーパーマーケット×太陽影QRコード広告
韓国は日本の次にQRコードが普及した国です。
その韓国で、2012年に大手大型スーパーマーケットE-martが実施したのは「Sunny Sale」というユニークな広告施策です。
屋外には3Dピクセル型のオブジェが設置されており、立体ピクセル部分が落とす太陽光の影によってQRコードが完成する仕組みになっています。
独自性

このQRコードは、太陽が真上にくる正午前後のわずか1時間だけ読み取ることができる、つまり限られた時間帯にしか出現しないQRコードです。
無事スキャンできると割引クーポンが取得できるといった仕組みになっています。
本来QRコードは、デンソーウェーブが製造現場での利用を目的として開発したものです。 油などの汚れが付着する製造現場でも使用できるよう、コードの一部が欠損しても正しく読み取ることができる強力な「誤り訂正機能」が備えられています。
だから太陽影でもQRコードの構造さえ成立していれば読み取ることができます。
つまりこの施策は、太陽光の影そのものを広告媒体として利用しています。
考察
もともと12時から13時までの売上が少ないといった課題を解決するために本施策は考案されました。 その結果、昼時間帯の売上は約25%増加し、新規オンライン会員は約58%増加。好評を受けて設置場所は当初の13カ所から36カ所まで拡大されました。
QRコードの「構造が整えば読み取れる」という技術的な利点を活かし、影が多少ずれても機能する柔軟性が1時間限定の出現条件を成立させています。
また逆に晴れていないと出現しないという不確定要素がSNSやニュースでの話題性を高める要因となりました。 QRコードの持つ強みと太陽光をかけ合わせることで、昼休み時間帯の売上低迷という課題を逆手に取った創造性豊かな広告施策を実現しました。
3. QRコード広告の成功事例に共通する要因
これらの事例を分析してみると、単にQRコードを使えば良いというものではなく、いくつかの共通する要因が見えてきます。
ー QRコードだからこそ成立する設計
QRコードが使われている3つの事例には、それぞれ「なぜQRなのか?」という明確な理由があります。
例えばQRコードTシャツ広告では、観光地を歩く人物そのものがメディアとなり、観光客の目に自然と留まる仕組みを作り上げています。 ギネスのグラスでは、黒ビールを注いだときのみQRコードが浮かび上がるという、その商品とQRコードだからこそ可能な広告を実現しました。 E-martの事例では、太陽の角度が合う正午前後のわずか1時間だけ、影によってQRコードが完成する仕掛けです。
これらの事例に共通しているのは、単純にオフラインとオンラインを繋ぐO2O施策としてQRコードを採用したわけではないという点です。
むしろQRコードならではの特性を、その場の環境や商品の性質と上手く掛け合わせることで、他の手法では実現できないユニークな広告を生み出しています。
ー 限定体験が話題を生む
人は「今しかできない」「ここだけしかない」という特別な体験に強く惹かれる傾向があります。
例えば、E-martのQRコードは正午前後の1時間という限られた時間にしか現れず、ギネスのQRコードはギネスビールを注文した時にのみ出現します。 観光地でのTシャツ広告も、その場所でしか出会えない限定的な体験と言えます。
このような限定性があることで、単に広告を見るだけでなく、「見つけることができた」「体験することができた」という行為そのものに価値が生まれます。
興味深いことに、雨の日にはQRコードが見えなくなったり、グラスが空だと何も起こらなかったりする「ちょっとした不便さ」も、実は体験のリアリティや話題性を高める要素として機能します。 偶然性や運の要素も含めた仕掛けが、ユーザーにとって印象深い広告となります。
4. このコラムに関連する関連資料まとめ
QRコードを活用したユニークな広告事例についてご紹介してきました。 この内容に関連する資料をご用意いたしました。
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