インフルエンサーマーケティングは、SNSや動画プラットフォームで影響力を持つインフルエンサーを通じて、商品やサービスの認知拡大・理解促進・購買促進を狙うマーケティング手法です。
一方で、施策の設計を誤ると、消費者から「広告っぽい」「本当に使っていなさそう」「企業に言わされているように見える」と受け取られることがあります。こうした違和感は、投稿単体の反応だけでなく、ブランドへの信頼にも影響します。
2025年にJournal of Marketingで公開されたBarbara Duffek氏たちが執筆した論文「Authenticity in Influencer Marketing」では、消費者、インフルエンサー、ブランド担当者、インフルエンサーマーケティング会社へのインタビューをもとに信頼されるPR投稿に必要な「本物らしさ」を分析しています。
本記事では、この論文の知見をもとに、インフルエンサー選定、投稿設計、インフルエンサーマーケティング会社の見極め方を、実務で使える形に落とし込んで解説します。
インフルエンサー施策で重要な「本物らしさ」とは?
インフルエンサー施策における本物らしさとは、投稿者が本当に商品やサービスを理解し、自分の言葉で自然に紹介していると消費者が感じられる状態です。
大切なのは、本物らしさはこのインフルエンサーは信頼できる人かという要素だけで決まらないという点です。
たとえば、普段から美容について発信している人が、実際の肌悩みや使用感を交えてスキンケア商品を紹介すれば、PR投稿でも自然に見えやすくなります。
一方で、普段の発信内容と関係の薄い商材を突然紹介したり、企業側の指定文言が強く出たりすると、同じ投稿者でも違和感が出やすくなります。
論文では、インフルエンサーの本物らしさは固定的なものではなく、ブランド、インフルエンサー、消費者の関係性の中で変化するものだと説明されています。
つまり、広告主や代理店が見るべきなのは、フォロワー数だけではなく「この人が、このブランドを、この言い方で紹介する理由があるか」です。

この図は少し複雑ですが、実務向けに言い換えると「インフルエンサー施策は、投稿者だけを見ても判断できない」ということです。
商品との相性、企業側の指示の強さ、投稿の自然さ、フォロワーとの関係性が噛み合って初めて、PR投稿は信頼されやすくなります。
本物らしさを作る5つの要素

Duffek氏の論文では、インフルエンサーの本物らしさを作る要素として、「専門性、つながり、誠実さ、独自性、透明性」の5つが整理されています。
論文内でも、各要素ごとにブランド担当者・インフルエンサー・インフルエンサーマーケティング会社が取るべき行動がまとめられています。
| 要素 | 実務での意味 | 確認すべきポイント |
|---|---|---|
| 専門性 | そのテーマについて継続的に発信しているか | 過去投稿の一貫性、商材カテゴリとの相性、発信内容の深さ |
| つながり | フォロワーと関係性ができているか | コメントの質、返信頻度、Q&Aやライブ配信の有無 |
| 誠実さ | 報酬目的だけで動いているように見えないか | 案件頻度、競合案件の多さ、ブランド価値観との一致 |
| 独自性 | その人らしい表現になっているか | 通常投稿とPR投稿のトーン差、体験談、ストーリー性 |
| 透明性 | 広告であることや使用感を正直に伝えているか | PR表記、提供・報酬の明示、良い点と注意点のバランス |
この5つの中でも、日本の実務で特に見落とされやすいのは「つながり」と「独自性」です。
インフルエンサー選定では、フォロワー数、リーチ、エンゲージメント率が重視されがちです。
しかし論文では、表面的な数値だけでなく、コメントの深さ、返信の丁寧さ、フォロワーからの相談や質問、フィードバックに対する追加投稿など、関係性の質を見る必要があるとされています。
また、独自性も重要です。
ブランド側が投稿文や構成を細かく指定しすぎると、情報は正確でも、投稿者らしさが失われます。その結果、フォロワーには「いつもの投稿と違う」「企業の広告文みたい」「どうせ案件だろう」と見られやすくなります。
インフルエンサー施策は3つの段階で考える
論文の図7(Figure 7)では、インフルエンサー施策を「インフルエンサー選定」「ブランドとの関係づくり」「投稿制作」の3段階で整理しています。選定段階では専門性・つながり・透明性、関係づくりでは誠実さ、投稿制作では透明性・誠実さ・独自性が重要になると示されています。

日本の実務に落とし込むと、次のように整理できます。
| 段階 | 目的 | 重視する要素 | 実務でやること |
|---|---|---|---|
| インフルエンサー選定 | 誰に依頼するかを決める | 専門性、つながり、透明性 | 過去投稿、コメント欄、PR表記、実使用の有無を見る |
| ブランドとの関係づくり | なぜこのブランドを紹介するのかを作る | 誠実さ | 価値観の一致、競合案件、案件頻度、本人の納得感を確認する |
| 投稿制作 | フォロワーに自然に届く形にする | 独自性、透明性、誠実さ | 本人の言葉を残し、広告表記と使用感を明確にする |
特にインフルエンサーマーケティング会社は、単なるキャスティング先のリストを出すだけではなく、この3段階を設計する役割を担うべきです。
クライアントに対して「この人はフォロワーが多いから」ではなく、「この人はこのテーマで継続発信しており、コメント欄で比較検討中のフォロワーと会話が生まれているため、この商材と相性がよい」と説明できる状態にすることが重要です。
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キャスティングで見るべきポイント
インフルエンサーを選ぶ際は、フォロワー数やエンゲージメント率だけで判断しないことが大切です。
見るべきポイント
1. 普段の投稿テーマと商材が合っているか
2. コメント欄の質
3. 案件頻度と競合案件
4. 投稿制作の共有資料の「任せる範囲」の部分
5. 正直なレビューを言えるかどうか
論文の表5(Table 5)でも、ブランドやインフルエンサーマーケティング会社に対し、継続的に特定テーマで発信している人を探すこと、フォロワーと双方向のコミュニケーションをしている人を見ることが提案されています。

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普段の投稿テーマと商材が合っているか
まず確認すべきなのは、インフルエンサーの普段の発信内容と商材の相性です。美容、子育て、旅行、食品、ガジェット、ビジネス、金融など、投稿テーマと商材カテゴリが自然につながるほど、PR投稿は受け入れられやすくなります。
ただし、必ずしも完全に同じカテゴリである必要はありません。Duffek氏の論文では、インフルエンサーが本来の発信領域から少し外れる場合でも、つながりや透明性が補完できれば、自然な投稿になり得るとされています。
たとえば、普段はガジェットを紹介している人が、仕事効率化の文脈でデスクチェアを紹介するのは自然です。
一方で、接点が見えないまま美容サプリを紹介すると、フォロワーに違和感を持たれやすくなります。
コメント欄の質

エンゲージメント率が高くても、コメント欄が絵文字や短文ばかりでは、購買や比較検討につながる関係性があるとは言い切れません。
見るべきなのは、フォロワーが質問しているか、投稿者が返信しているか、投稿をきっかけに具体的な相談や体験談が出ているかです。論文でも、会話の深さや返信の丁寧さ、意味のある関係づくりが重要だとされています。
インフルエンサーマーケティング会社が提案資料を作る場合は、以下のような項目を入れると説得力が高まります。
| 確認項目 | 見るべきポイント |
|---|---|
| コメントの内容 | 質問、相談、購入検討、比較の声があるか |
| 返信の有無 | 投稿者がフォロワーと会話しているか |
| 通常投稿との比較 | PR投稿だけ反応が落ちていないか |
| フォロワーの温度感 | 信頼、共感、悩み相談が生まれているか |
| 過去PRの受け止められ方 | 広告っぽい、不自然などの反応がないか |
案件頻度と競合案件を見る
PR投稿が多すぎると、フォロワーは「また広告か」と感じやすくなります。特に、同じカテゴリの競合商品を短期間で複数紹介している場合、投稿者の発言に説得力が出にくくなります。
論文でも、ブランド担当者やインフルエンサーマーケティング会社に対し、多数のブランドと仕事をしている人や、競合商品を頻繁に紹介している人を避けることが提案されています。
キャスティング時には、直近3カ月から6カ月のPR投稿数、同カテゴリ案件の有無、競合ブランドとの関係、過去の自然言及を確認するといいと言えます。
投稿制作の共有資料は「縛る」のではなく「任せる範囲」を決める

インフルエンサー施策で失敗しやすいのが、ブランド側が投稿内容を細かく管理しすぎるケースです。
もちろん、商品名、価格、キャンペーン条件、広告表記、法務上のNG表現など、必ず管理すべき情報はあります。しかし、投稿文の流れや言い回し、写真・動画の見せ方まで細かく指定しすぎると、投稿者らしさが失われ、かえって広告感が強くなります。
論文では、ブランド側が細かな台本を用意するのではなく、施策の目的や成果目標を明確にしたうえで、インフルエンサーが自分の投稿文脈の中にブランドを自然に取り入れられる余地を残すことが重要だと示されています。インフルエンサーの本物らしさは、ブランド・投稿内容・消費者との関係性の中で形成されるため、ブランド側の管理が強すぎると、その関係性が崩れやすくなります。
実務では、投稿制作の共有資料を以下のように整理すると運用しやすくなります。
| 項目 | ブランド側が決めること | インフルエンサーに任せること |
|---|---|---|
| 必須情報 | 商品名、発売日、キャンペーン条件、広告表記 | 情報の見せ方 |
| 訴求方向 | 誰に、どのような価値を伝えたいか | 体験談の切り口 |
| 表現ルール | NG表現、誇大表現、薬機法・景品表示法上の注意点 | 言い回し、テンション、構成 |
| クリエイティブ | 必須素材、ロゴ、リンク、指定ハッシュタグ | 撮影方法、投稿スタイル |
| 確認範囲 | 事実誤認、権利侵害、ブランド毀損リスク | 投稿者らしい表現 |
インフルエンサーマーケティング会社は、ブランドの要望をそのまま投稿者に渡すのではなく、インフルエンサーが自分の言葉に変換できる形に整理する役割を持ちます。
たとえば、ブランド側が「新成分を訴求したい」と考えている場合、そのまま成分説明を入れても広告文のように見えやすくなります。投稿者には「朝の時短ケアで感じた変化」「敏感肌でも使いやすかった点」「旅行先にも持っていきやすい理由」など、生活文脈に落とし込める切り口を提案すると自然です。
重要なのは、ブランドが伝えたい情報を消すことではありません。ブランドが伝えたいことを、インフルエンサー本人の体験や言葉を通じて、フォロワーが納得しやすい形に変換することです。
正直なレビューは、ブランドの信頼につながる
ブランド側は、商品の弱点や注意点を投稿内で触れられることを避けたいと考えがちです。しかし、良い点だけが並んだ投稿は、かえって不自然に見えることがあります。
論文では、商品の良い点だけでなく、注意点や弱点も含めてバランスよく伝える投稿は、インフルエンサーとブランド双方の信頼感につながる可能性があると示されています。また、ブランドやインフルエンサーマーケティング会社が、正直なレビューを促すための方針を持つことも重要だとされています。
例えば、以下のような表現は、単なるネガティブ情報ではなく、購入前の判断材料になります。
| 商品カテゴリ | 自然な伝え方の例 |
|---|---|
| スキンケア | 香りは好みが分かれそうですが、保湿感はしっかりありました |
| 食品 | 甘さは控えめなので、濃い味が好きな人より毎日続けたい人向きです |
| アプリ | 最初の設定は少し時間がかかりますが、慣れると管理が楽になります |
| 家電 | 本体はやや大きめですが、その分パワーは十分に感じました |
| BtoBサービス | 導入時の設定は必要ですが、運用後の確認作業はかなり減らせます |
インフルエンサー施策で大事なのは、商品を完璧に見せることではありません。消費者が納得して判断できる情報を届けることです。
正直なレビューを許容するブランドは、短期的な投稿成果だけでなく、長期的な信頼形成にもつながりやすくなります。特に、比較検討が必要な商材や高単価商材では、良い点だけを並べるよりも、向いている人・向いていない人を整理した投稿の方が、結果的に信頼されやすくなります。
日本で実施する際に注意したいステルスマーケティング規制
日本でインフルエンサー施策を実施する場合、ステルスマーケティング規制への対応は必須です。
消費者庁は、2023年10月1日から、広告であるにもかかわらず広告であることを隠すステルスマーケティングを景品表示法違反としています。1さらに消費者庁は、広告であることが分からない場合、消費者が企業ではない第三者の感想だと誤って認識し、商品・サービスを合理的に選べなくなるおそれがあると説明しています。
特定のインフルエンサーに商品を無償提供し、SNS投稿を依頼する場合も、やり取りの内容、無償提供の目的、取引関係などによっては、インフルエンサーの自主的な投稿ではなく、事業者の表示に当たる可能性があります。
また、投稿本文ではなくリプライ欄だけで広告表記をする、動画の冒頭だけに短く表示する、といった対応では、消費者が広告であることに気づきにくい場合があります。広告であることは、投稿を見た人が分かりやすい位置・方法で示す必要があります。
実務では、以下を必ず確認しましょう。
| 確認項目 | 実務上の注意点 |
|---|---|
| PR表記 | 投稿本文や動画内で見落とされにくい位置に入れる |
| 広告主名 | 誰の依頼・提供なのか分かるようにする |
| 関係内容 | 商品提供、報酬、招待、タイアップなどを明確にする |
| 投稿内容の修正 | 事実誤認や法務リスクの修正に留め、自社に都合よく感想を変えさせない |
| 二次利用 | LPや広告に転載する場合も、依頼した投稿であることが分かるようにする |
| 管理記録 | 依頼内容、確認履歴、修正指示、掲載期間を残す |
特に注意したいのは二次利用です。SNS上ではPR表記がされていても、LPや広告バナー、記事広告などに転載したときに関係性が分からなくなると、消費者に誤認を与える可能性があります。
そのため、インフルエンサー投稿を自社サイトや広告クリエイティブに活用する場合は、自社が依頼した投稿であることが閲覧者に分かるように表示する必要があります。
インフルエンサーマーケティングに関するよくある質問
- インフルエンサーマーケティングとは何ですか?
-
インフルエンサーマーケティングとは、SNSや動画プラットフォームで影響力を持つインフルエンサーを起用し、商品やサービスの認知拡大、理解促進、購買促進を図るマーケティング手法です。
- インフルエンサーを選ぶときに最も重要なことは何ですか?
-
フォロワー数だけでなく、普段の投稿テーマと商材の相性、フォロワーとの関係性、過去のPR投稿の自然さを見ることが重要です。
特に、「この人がこの商品を紹介する理由があるか」を確認する必要があります。理由が弱いまま投稿を依頼すると、フォロワーに広告っぽい投稿として受け取られやすくなります。
- PR投稿で広告っぽさを抑えるにはどうすればよいですか?
-
ブランド側が投稿文を細かく指定しすぎず、インフルエンサー本人の体験談や言い回しを活かすことが重要です。
一方で、広告表記、商品情報、NG表現など、必ず管理すべき項目は事前に明確にしておきます。管理する部分と任せる部分を分けることで、法令対応と自然な投稿表現を両立しやすくなります。
- 商品の悪い点は投稿に入れない方がよいですか?
-
必ずしもそうではありません。商品の注意点や向き不向きを正直に伝えることで、消費者の納得感が高まり、結果的にブランドの信頼につながる場合があります。
大切なのは、ブランド毀損につながる表現ではなく、購入判断に役立つ情報として整理することです。
- インフルエンサー投稿をLPや広告に二次利用する場合の注意点は?
-
SNS投稿時にPR表記があっても、LPや広告に転載する際に関係性が分からなくなると問題になる可能性があります。
自社が依頼したインフルエンサー投稿であることが、閲覧者に分かる形で表示されているか確認しましょう。
まとめ
インフルエンサーマーケティングで成果を出すには、フォロワー数の多い人を起用するだけでは不十分です。重要なのは、インフルエンサー、ブランド、商品、投稿内容、消費者の関係性が自然につながっているかです。
本物らしさは、インフルエンサー本人だけが持つものではなく、キャスティング、ブランドとの関係づくり、投稿制作、情報開示、効果検証のすべてで作られます。
日本で施策を実施する場合は、ステマ規制への対応も欠かせません。PR表記や関係性の明示を徹底しながら、インフルエンサー本人の言葉や体験談を活かすことが、信頼される投稿につながります。
インフルエンサーマーケティング会社に求められる役割も、単なる手配から、ブランドと投稿者の間にあるズレを調整する設計役へと変わっています。誰に依頼するかだけでなく、なぜその人が語るのか、どのように語ると自然に伝わるのかまで設計することが、これからのインフルエンサー施策では重要になるかもしれません。
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