リテールメディアとは
リテールメディアとは、小売企業が自社の購買データや会員データを使って運営する広告の媒体を指します。リテール(小売)とメディア(媒体)を組み合わせた言葉です。代表例は、楽天市場やAmazonの検索結果に表示される広告や、小売各社のアプリ内のバナー広告です。どの会社がリテールメディアを運営しているかを知る前に、仕組みと注目される背景を手早く押さえておくと、出稿先を選ぶときの判断がしやすくなります。
リテールメディアの定義と仕組み
リテールメディアの中心にあるのは、小売企業が持つ自社データの活用です。ここでいう自社データとは、誰がいつ何を買ったかという購買履歴や、会員情報、アプリの利用履歴を指します。
これらは、その企業が自社の顧客から直接集めたデータであり、ファーストパーティデータと呼ばれます。小売企業はこのデータをもとに、商品を求める可能性が高い消費者へ広告を配信します。
広告主であるメーカーは、自社では把握しにくい購買データを使った配信ができ、広告が実際の購買にどう影響したかを測りやすくなります。広告枠は、ECサイトの検索結果やアプリの画面、店頭のデジタル画面など多岐にわたります。小売企業にとっては、商品の販売に加えて広告という新たな収益源になります。
リテールメディアが注目される背景
リテールメディアへの関心が高まった背景には、購買データの価値が見直されたことがあります。
インターネット広告では長く、サイトをまたいで利用者を追跡するサードパーティCookieという仕組みが使われてきました。これは、広告配信元が利用者のブラウザに保存する識別情報のことです。プライバシー保護の流れを受け、AppleのSafariはこの仕組みをすでに制限しています。Googleも廃止を検討してきましたが、2025年4月に廃止計画の撤回を発表し、現時点では利用者の設定にゆだねる方針へ転換しました。廃止は見送られたものの、追跡型の広告に頼りにくい流れ自体は続いています。
そうしたなかで、小売企業が持つ確かな購買データを使えるリテールメディアの価値が、相対的に高まりました。市場規模もこれを裏づけています。CARTA HOLDINGSとデジタルインファクトの調査によると、国内のリテールメディア広告市場は2024年に4,692億円となり、前年比125%で成長しました。2028年には1兆845億円に達すると予測されています。
リテールメディアを運営する主要会社【国内】
国内では、ECを中心とする会社と、実店舗を持つ小売各社の双方がリテールメディアを運営しています。前出の調査では、2024年の市場規模4,692億円のうち、EC事業者が4,142億円、実店舗を持つ店舗事業者が550億円を占めました。EC側が先行する一方、店舗側の伸びも大きく、両者の特徴を理解すると出稿先を選びやすくなります。
ここでは代表的な運営会社を、媒体の特徴と届く客層、出稿できる広告枠の観点から見ていきます。
Amazon
Amazonは、国内のECを基盤としたリテールメディアの代表的な運営会社です。広告サービスのAmazon Adsを通じて、購入意欲の高い利用者へ商品を訴求できます。
出稿できる主な広告枠は、検索結果の上位や商品ページに表示されるスポンサー広告です。利用者が商品を探している場面で広告が表示されるため、購買に近い段階の層へ届けられます。Amazonは利用者の購買履歴や検索行動を膨大に蓄積しており、これをもとにした精度の高い配信が強みです。広告から購入までが同じサイト内で完結するため、広告がどれだけ売上に結びついたかを測りやすい点も特徴です。
日用品から家電まで幅広い商材を扱う消費者へ一度に接触できる媒体として、多くのメーカーが活用しています。
楽天グループ
楽天グループは、楽天市場を中心に、購買データと会員基盤を生かしたリテールメディアを運営しています。楽天IDにひもづく購買履歴や会員情報を使い、関心の高い利用者へ広告を配信できます。
出稿できる枠には、楽天市場の検索結果に表示される広告や、利用者の属性にあわせて表示されるバナー広告があります。楽天は、ショッピングだけでなく、決済や通信、金融など多くのサービスを展開しており、これらを横断した利用者の行動データを持つ点が特徴です。複数のサービスをまたいで消費者を捉えられるため、購買の前後にある幅広い接点で訴求できます。
日本の消費者に広く使われているECモールの一つであり、国内市場への到達力の高さが強みになります。
大手スーパー・コンビニ系(イオン、セブン&アイ)
実店舗を持つ大手小売各社も、アプリと店舗データを結びつけたリテールメディアの運営を本格化させています。イオンリテールは、お買物アプリを基点に、店舗での購買データと顧客データを結びつけています。
報道によると、同アプリの会員登録数は2023年10月末時点で1,070万人を超えました。クーポンやチラシの配信を通じて、来店前から購買行動に働きかけられる点が特徴です。セブン&アイ系のセブン-イレブン・ジャパンは、2022年9月にリテールメディアの専門部署を設置し、広告事業を本格化させました。アプリでのバナー広告やクーポン配信に加え、店舗網を生かしたメディア化を進めています。
実店舗を持つ小売の強みは、オンラインだけでは捉えにくい実際の購買と来店のデータを活用できる点にあります。
コンビニ・専門小売系(ファミリーマート ほか)
店頭のデジタル画面を生かしたリテールメディアも広がっています。
ファミリーマートは2023年にリテールメディア事業へ参入し、全国の店舗のレジ上にデジタルサイネージを設置しました。デジタルサイネージとは、画面に映像や広告を表示する電子的な看板のことです。地域ごとに配信内容を変えられるため、エリアを絞った広告に向いています。同社は自社アプリのファミペイも運営しており、報道によると、サイネージとアプリを通じた広告で2028年に100億円の利益を上げる目標を掲げています。
家電量販店やドラッグストアなどの専門小売も、それぞれの来店客層にあわせた媒体を整えつつあります。特定の商品分野に関心を持つ消費者へ的を絞って届けたい場合に、こうした専門小売の媒体が選択肢になります。
リテールメディアを運営する主要会社【海外】
海外、とくに米国ではリテールメディアが先行し、市場の規模も大きく育っています。国内の媒体を検討するうえでも、先行する海外の会社がどんなサービスを展開しているかを知ると、今後の動きを見通しやすくなります。ここでは代表的な海外の運営会社を取り上げます。いずれも自社の購買データと広い顧客基盤を生かして、広告事業を収益の柱に育てている点が共通します。
Amazon(グローバル)
Amazonは、グローバルでもリテールメディアをけん引する運営会社です。報道によると、同社の2024年10月から12月期の広告事業の売上高は172億8,800万ドルとなり、前年同期比18%増を記録しました。米国のリテールメディア市場では、シェアの77%超を占めるとされます。広告枠は、検索結果や商品ページのスポンサー広告が中心で、購買に近い場面で消費者へ訴求できます。さらに、実店舗やネットスーパーでのデジタル広告にも取り組み、オンラインとオフラインの両面で接点を広げています。購買履歴をもとにした精度の高い配信と、広告から購入までを同じ基盤で測れる仕組みが、世界規模での成長を支えています。日本のAmazon Adsも、この基盤の上に成り立っています。
Walmart Connect
Walmart Connectは、米小売り最大手のWalmartが運営するリテールメディアです。全米に4,000を超える店舗網を持ち、実店舗での広告展開に力を入れている点が特徴です。報道によると、Walmart Connectの事業は急成長しており、2023年11月から2024年1月期には売上高が前年同期比で22%増加しました。広告は食料品の販売に比べて利益率が高く、小売の新たな収益源として位置づけられています。店舗での購買データとオンラインの行動データを組み合わせ、広告主に対して購買への影響を示せる点が強みです。米国市場ではAmazonに次ぐ存在として、リテールメディアの動きを後押ししています。日本の小売各社が media化を進めるうえでも、先行事例として参照されています。
その他の海外大手
米国では、AmazonとWalmart以外にも多くの小売企業がリテールメディアを展開しています。スーパー大手のKrogerは、購買データを使った広告サービスを早くから手がけ、メーカー向けの配信や効果測定の仕組みを整えてきました。こうした動きを支えるのが、広告配信や効果測定の基盤を提供する技術会社です。たとえばCriteoは、小売企業とメーカーの双方に対して、広告配信から測定までを一つの基盤で提供しています。市場の広がりとともに、小売企業同士が連携してデータを束ね、まとめて広告配信を行う動きも出てきました。米国の事例は、媒体を運営する小売だけでなく、それを支える技術会社が層をなして市場を形づくっていることを示しています。
リテールメディアの出稿を支援する会社
リテールメディアへの出稿を考えるとき、媒体を運営する会社だけでなく、出稿を支援する会社の存在も知っておくと選択肢が広がります。媒体ごとに広告の仕様や管理画面が異なり、複数の媒体を使い分けるには専門的な運用の手間がかかります。こうした負担を引き受けるのが支援会社です。
大きく分けて、運用そのものを任せられる広告代理店系と、配信や効果測定の基盤を提供する技術系の会社があります。
広告代理店系の支援会社
広告代理店系の支援会社は、媒体をまたいだ出稿の企画から運用までを引き受けます。
リテールメディアは小売ごとに媒体が分かれており、出稿主であるメーカーが個別に対応するには負担が大きくなります。代理店はこの間に立ち、複数の媒体を横断した設計や運用を代行します。たとえば博報堂は、2023年4月にグループ横断のリテールメディア支援の取り組みであるリテールメディアONEを発足させました。媒体を運営する小売企業と、出稿主であるメーカーの双方に対して、総合的な窓口として支援を提供しています。国内では地域に根ざした小売が多く、媒体が分散しやすいという事情があります。
こうした分散を補い、広告主が使いやすい形に整える役割を、代理店系の支援会社が担っています。
ソリューション・ツール提供会社
技術系の支援会社は、広告の配信や効果測定を支える基盤を提供します。ここでいう基盤とは、広告をどの利用者に配信し、その結果どれだけ購買につながったかを管理する仕組みのことです。
たとえばCriteoは、小売企業とメーカー、広告代理店に対して、広告の配信から効果測定までを一つの基盤で提供しています。市場規模を調査するデジタルインファクトのような会社も、市場の動きを示すデータを通じて出稿の判断を支えています。
こうした技術会社は、媒体を持たない代わりに、複数の小売のデータや広告枠を束ねて使えるようにする役割を果たします。自社で運用の体制を持たないメーカーにとって、配信と測定の基盤を借りられる支援会社は、出稿を始めるときの現実的な選択肢になります。
リテールメディアの広告メニューの種類
リテールメディアの広告は、配信される場所によって大きく二つに分かれます。インターネット上で配信されるオンラインの広告と、店頭で展開されるオフラインの広告です。どちらを選ぶかは、届けたい相手と目的によって変わります。両者の種類と特徴を押さえておくと、媒体を選ぶときに自社の目的と照らし合わせやすくなります。
オンラインの広告メニュー
オンラインの広告は、ECサイトやアプリの画面で配信されます。代表的なのが、検索結果や商品ページに表示される広告です。利用者が商品を探している場面で表示されるため、購買に近い層へ届けられます。
次に、アプリ内のバナー広告やクーポン配信があります。会員データをもとに、関心の高い利用者へ絞って配信できます。さらに、メールマガジンを使った配信もあり、登録した会員へ直接情報を届けられます。これらに共通する利点は、配信した広告がどれだけ閲覧され、購買につながったかを数値で測りやすいことです。オンラインの広告は、購買履歴や会員データを生かした絞り込みと、効果の測定のしやすさが魅力になります。
オフラインの広告メニュー
オフラインの広告は、店頭という購買の直前の場所で展開されます。代表的なのが、店内に設置されたデジタルサイネージです。画面に映像や広告を表示し、地域や時間帯に応じて内容を変えられます。買い物の最中に商品を訴求できるため、その場の購買決定に働きかけやすい点が特徴です。
次に、商品棚や店頭に置かれるPOP広告があります。POPとは、店頭で商品を案内する小さな掲示物のことです。消費者が商品を手に取る直前に情報を届けられます。オフラインの広告は、来店した消費者という確かな購買意欲を持つ層へ、購入の直前に接触できる点で、オンラインとは異なる価値を持ちます。
リテールメディアの出稿先を選ぶときのポイント
運営会社や支援会社、広告メニューを理解したら、次は自社に合う出稿先をどう選ぶかという段階に進みます。リテールメディアは媒体ごとに客層も広告枠も異なるため、目的に照らして選ぶことが成果を左右します。ここでは出稿先を選ぶときに確認したい三つのポイントを示します。いずれも、出稿前に媒体資料などで具体的に確かめておきたい観点です。
ターゲットと媒体の客層を照らし合わせる
出稿先選びの起点は、届けたい相手と媒体の客層が合っているかどうかです。
リテールメディアは、運営する小売企業によって集まる客層が異なります。総合的なECモールには幅広い層が集まり、特定分野の専門小売には、その分野に関心の強い層が集まります。たとえば日用品を広く訴求したいなら、利用者の多い大手ECや総合スーパーの媒体が候補になります。特定の商品分野に絞って届けたいなら、その分野を扱う専門小売の媒体が向いています。自社の商品を最も求めそうな層が、どの媒体に集まっているかを見極めることが第一歩です。
媒体資料には客層のデータが示されていることが多く、これを自社のターゲットと照らし合わせると判断がしやすくなります。
オンラインとオフラインを目的で使い分ける
オンラインとオフラインのどちらを選ぶかは、広告の目的によって決めます。
購買履歴を生かした絞り込みや、効果を数値で細かく測りたい場合は、オンラインの広告が向いています。配信結果をデータで確認し、すばやく改善できるためです。一方、来店した消費者へ購入の直前に訴求したい場合は、店頭のデジタルサイネージやPOP広告といったオフラインの広告が効果を発揮します。両者は対立するものではなく、組み合わせると効果が高まります。
オンラインで関心を引き出し、店頭で購入を後押しするという流れを設計すれば、購買の前後をつないで訴求できます。目的を整理したうえで、媒体が提供する広告メニューがそれに合うかを確かめることが重要です。
効果測定とデータ連携の可否を確認する
出稿先を選ぶうえで、効果をどう測れるかは事前に確かめたい点です。
リテールメディアの強みは、広告が実際の購買にどう影響したかをデータで示せることにあります。ただし、その測定の仕組みや、提供されるデータの細かさは媒体によって異なります。広告の閲覧数だけが分かる媒体もあれば、購買への影響まで追える媒体もあります。出稿前に、どの指標をどこまで確認できるかを把握しておくと、出稿後の評価がしやすくなります。
あわせて、自社が持つデータと媒体側のデータを連携できるかも確認したい点です。連携ができれば、配信の精度を高めたり、効果をより正確に測ったりできます。これらは媒体資料や問い合わせで具体的に確かめておくと、出稿後のずれを防げます。
リテールメディアへの出稿を始める手順
出稿先を選ぶ観点が定まったら、実際に出稿を始める手順を確認します。リテールメディアへの出稿は、媒体ごとに細部は異なるものの、大きな流れは共通しています。比較検討から効果測定までの道筋を押さえておくと、初めての出稿でも進めやすくなります。ここでは出稿の準備と、配信までの基本的な流れを示します。
出稿先の比較検討
出稿の最初の段階は、複数の媒体を並べて比べることです。リテールメディアは運営会社が多く、それぞれ客層も広告枠も料金体系も異なります。
一つの媒体だけを見て決めると、自社の目的により合った媒体を見落とすおそれがあります。比較で確認したいのは、届く客層、出稿できる広告枠の種類、効果測定の仕組み、そして費用です。これらを横並びにすると、自社の予算と目的に最も合う出稿先が見えてきます。媒体ごとに個別へ問い合わせると時間がかかるため、複数の媒体資料をまとめて入手し、比べる進め方が効率的です。
媒体資料のダウンロードサービスを使えば、リテールメディアに関する媒体情報を一度に集め、条件を比べたうえで出稿先を絞り込めます。
出稿のプロセス
出稿先が決まったら、配信に向けた手順を進めます。基本の流れは次のとおりです。
- ターゲットを設定します。自社の商品を届けたい相手を、年齢や地域、購買傾向などの観点で具体的にします。
- 媒体と広告枠を選びます。設定したターゲットが集まる媒体を選び、目的に合う広告枠を決めます。
- 広告を配信します。オンラインの広告枠や店頭のデジタルサイネージなど、選んだ枠で配信を開始します。
- 効果を測定します。閲覧数や購買への影響を確認し、結果をもとに次の配信へ改善を反映します。
この流れを一巡させたら、測定の結果を踏まえて、ターゲットの設定や媒体の選び方を見直します。出稿を繰り返しながら精度を高めていくと、限られた予算でも成果を積み上げられます。






















